甘い誘惑~なんだかんだで彼は私の扱いが巧いらしい~

決まり悪くぶつぶつそう言えば、山門は溜息と共に眉を情けなく下げた。


「萩原さんはダイエット必要な程ふくよかではないではないですか。」

「え?ナニ?それはこの私が貧乳だとでも?」

「え!?いやいやまさか!寧ろその辺りは十分すぎるほどに………って!セクハラ発言誘導するの止めて下さい!!」


山門は顔を赤くして吠えた。


返答をしない事にはどうにも折れそうも無い山門に私が折れて渋々と理由を語る。


「だってぇ、私の好きなアイドル君は手足折れそうな程細い子が好みなんだもーん。因みに来週コンサートなんだもーん。」


山門は世の中の理不尽を目の当たりにしたような顔で言った。一言。


「萩原さん…バカですか?」

「はぁぁい?君、先輩に向かってバカってね…」

「だってバカでしょ!?そんな事の為にフラフラになるほどダイエットして!よしんば痩せたとしてコンサートで萩原さんがそのアイドルの目に留る確率がどれほどあると思ってんですか!?」

「煩いわ。限りなくゼロかもしれないけど世の中に絶対はないのよ!万が一の時に備えて努力しておきたいの~。」


「何となくイイ事言ってるっぽいけど、限りなく不毛…」と山門は眉を顰める。


「大体三十目前にもなってアイドルって…。もっと現実を見ましょうよ!冷静に周囲を見れば堅実で誠実でリアルな生身の男がいるでしょう?」


ホラ、その代表!と言わんばかりに目を煌めかせて身を乗り出す山門から私は冷静に視線を反らした。

山門とは、同僚以上フレンド未満。

そりゃもう忠犬かの如くに好き好きアピールはされているけども……。

山門は生真面目だし、優しいし、頼りになるし、“イイ人”には違いないけども……。

そうね…今一ピンと来ないと言うか。

女は多かれ少なかれちょっと危険な香りに惹かれてしまうものなのよ。

その香りがまるでしない山門はイイ人だとは思うけど、まぁそこまでというか。
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