足音
両手が塞がっているため、階段を一段一段丁寧に降りている時だった。
「あの…ね?その」
「フリーでしょ?」
そんな声が聞こえたのは。
上から下を覗くようにしてみると、彼女が目に入った。
加世が彼――稲毛に、いわば壁ドンされている。
少なくとも、甘いピンクな感じはない。
加世が一方的にびびってる。
稲毛の金に近い茶髪に隠れるように加世が写る。
たまらなく不快だった。
「…フリー、だよ?」
「ん、ならいいじゃん、ね?」
甘く、とろけるような美声で、加世を落とそうとする。
あんな芸当俺には無理。
すごいな、尊敬する。
「…っ、でも、だめだよ、そんな…」
「加世ちゃん今どき何言ってんの?付き合ってから好きになるケースなんてたっくさんあるよ?それでいこうよ、な」
はむっ、と加世の耳を食べる。
うわ…
苦い感情が嫌で、目をそらそうとした時だった。
「ふ、ぅ…うっ…ぁあ」
そんな、嗚咽が聞こえたのは。