足音
「捕まえた」
影が私を覆う。
あぁ嫌だ、不快だ。
違和感。
また、壁と稲毛の間に挟まれた。
大抵の女子がきゃあきゃあ言う、壁どんってやつだ。
――こんなに、怖いの?
前から黒い影を帯びて私を見下ろす稲毛。
目はくすんでいて、何考えてるかわからない。
怒ってることだけはわかった。
「あの…ね?その」
「フリーでしょ?」
単刀直入すぎる。
「…フリー、だよ?」
「ん、ならいいじゃん、ね?」
よくないよ。
何がだよ。
だって、私あなたが怖いの。
そんなんで好きになれるわけない。
甘くて、とかすような美声でも。
私の心は冷めるばかり。
「…っ、でも、だめだよ、そんな…」
怖い。
しゃがみたくなるほど怖い。
助けてよ、連れ出してよ。
「加世ちゃん今どき何言ってんの?付き合ってから好きになるケースなんてたっくさんあるよ?それでいこうよ、な」
耳がぞわりと泡出つ
甘噛みされたのだ。彼に。
ぶわわと鳥肌が波のように立った。