足音


「捕まえた」


影が私を覆う。

あぁ嫌だ、不快だ。

違和感。


また、壁と稲毛の間に挟まれた。


大抵の女子がきゃあきゃあ言う、壁どんってやつだ。


――こんなに、怖いの?


前から黒い影を帯びて私を見下ろす稲毛。

目はくすんでいて、何考えてるかわからない。


怒ってることだけはわかった。


「あの…ね?その」


「フリーでしょ?」


単刀直入すぎる。


「…フリー、だよ?」


「ん、ならいいじゃん、ね?」


よくないよ。

何がだよ。

だって、私あなたが怖いの。

そんなんで好きになれるわけない。


甘くて、とかすような美声でも。

私の心は冷めるばかり。


「…っ、でも、だめだよ、そんな…」


怖い。

しゃがみたくなるほど怖い。


助けてよ、連れ出してよ。


「加世ちゃん今どき何言ってんの?付き合ってから好きになるケースなんてたっくさんあるよ?それでいこうよ、な」


耳がぞわりと泡出つ

甘噛みされたのだ。彼に。


ぶわわと鳥肌が波のように立った。
< 21 / 31 >

この作品をシェア

pagetop