禁じられた放課後
緑の葉をやさしく雨が弾いていく午後。
直哉の教室に向かう二階の渡り廊下で、涼香は何度も足を止めていた。
今日は行かない方がいいのではないだろうか。
どこかでそんな不安が付きまとい、窓に流れる透き通ったラインを指でなぞっては溜め息をつく。
栞の挟まれた小さな本を取り出し、中のページを見てまた目を臥せる。
こんな日だからこそ、直哉の声が聞きたかった。
たとえそこに笑顔がなくても、後ろ姿でもいい。
少し低めのこもるような直哉の声が、胸の辺りに響くだけでなんとも言えない感覚が身体を駆け抜けるのだ。
もしもその声で好きだと言われたなら、夜空の星がなくなっても構わないとさえ思ってしまう。
「でも、今日の恋愛運は最悪だな……。乗り物もバツ。雨なのに歩いて帰れと言うのね」
涼香は直哉の教室とは反対の方に向かって歩き出した。
開け放たれた窓から湿気を含んだ風が舞い込み、細い髪を乱す。
唇に掛かる毛先。
手櫛を耳元まで流すと、目の前には早川が立っていた。
「ちょっといいかな?」
「……はい」
早川は涼香の背に手を掛け、自分の教室へと誘い入れた。