碧い人魚の海
 右側も帆船だったが、黒塗りの木製で、フォルムが四角っぽくて甲板がほかのふたつよりやや低い。帆も汚れていてみすぼらしい。がまあ、これも見かけたことがなくはない。
 ルビーは一番右の、他のふたつより背が低くて少し不格好な船に連れて行かれた。さっきの女の子は”閣下”に連れられて、真ん中の船に乗せられたらしい。

 島に上陸したたくさんの人々は、結局使わないままだったつるはしや斧などをめいめいに担いでボートに乗り、次々と、3隻の船に乗り別れていく。彼らがやるはずだった作業を、魔法使いの男が一瞬でやってのけたため、結果として彼らの行進は無駄足だった。なのに、だれ一人文句を言わないのがルビーには不思議で仕方なかった。
 人間って変だ。


 太った男に連れられて甲板に降り立ったルビーは、振り返って海を見た。ボートはまだ5、6艘海面に残り、母船に引き上げられる順番を待っていた。そのボートからだれかがこちらに向けて何か叫んでいた。
「おーい、来てくれー」
 水夫の服を着た男たちが甲板の縁から顔を出して、叫び返した。
「どうしたんだー?」
「銛(もり)があるか? 銛を貸してくれ」
「あるが、どうしたんだ?」
 船の上からだれかが答えた。

 こちらを見上げる若い男の顔が輝いている。
「カジキだ。でかいのがいる。浅いところを泳いでいるんだ。今なら捕まえられるぞ」
「なんだと」
 男たちは色めきたった。
「待ってろよ。今届ける」
 銛を持った水夫は自分の腰に巻いた命綱を甲板にくくりつけ、海に飛び込んだ。

 彼らのやりとりを聞いて、ルビーは真っ青になった。

 アシュレイだ!

 魚は気はいいが、あまり頭がよくない。ルビーは日が暮れる頃にと約束をさせたが、考えてみればアシュレイに時間の感覚があるかどうか疑わしい。ルビーが見つけやすいように、今からもう海の浅いところを泳いで待っているのかもしれない。
 もしもアシュレイが船につかまってしまったら、こんなところに連れてきたルビーの責任だ。こんな島に。こんな、人間に近いところに。

 ルビーは甲板の縁に引き返そうと、男につかまれた腕を力任せに引っ張った。太った男も興味があるのか、逆らおうとはせず一緒についてきた。
 甲板から身を乗り出して、魚の姿を探す。
 光に揺れる波間に映る大きな魚影。
 見つけた。
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