彼の濡れた髪
照れた顔よりも、ちょっと真剣な目つきの彼に驚いて目を奪われる。

うわ。なんか、コレ……怖い。けど、反面どこかで心が騒ぐっていうか。
ああ。なるほど。カズくんに対しては恋じゃないけど心を許してるから。そういう相手にされると、ドキドキする効果があるのかもしれない。

だって、これが誰か知らない人だったら、なんて想像したら恐怖以外なにものでもないもん。

ヨシさんの策略に乗せられた私たちは、結果、目的は達成したものの、お互いになにも発さず。また、どう収集していいのかわからずに固まっていると、悲劇が――。

カチャリ、と静かなリビングに音がして、全員がその方向に顔を向ける。
と、同時に、もれなく全員が青褪め、一気に体温が低下したのは間違いない。

「ゆっ……」

カズくんがその名を口にしかけて、バッと私に背を向けるように身を翻した。

「いやっ……コレは!俺が頼んで」

ちらりとカズくんがヨシさんに視線を送ったのをみて、ヨシさんのせいに出来ないって思って、咄嗟に庇ったんだとわかった。

「いや!ミキちゃんはなにもわかんないまま、おれに!」

それに繋げるように否定したのはヨシさんで。
私を見ながら言った言葉に、私への気遣いが感じられる。

だけど、この手遅れな状況で私だけが逃れようだなんて思ってない。

「わ、私が……今流行ってるって聞いて……ど、どんなものかっていう……」

みんなとは円満に仕事して欲しいし!
ていうか、きっとユキだってそんなに気にすることないと……思う。なんとなく。たぶん。おそらく。

「あ!なんかお二人忙しいんですよね?!そろそろ帰らなきゃなんですよね?」
「「え!」」

一方的に私がカズくんとヨシさんにそういうと、二人は驚きの眼差しを一斉に向ける。
私が目で『大丈夫』って懸命に合図すると、二人は私に負けたように家を出て行った。
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