天狗娘は幕末剣士
すると、彼は嬉しそうに笑って、家へと帰って行った。
私も、その後ろ姿を見送って立ち上がった。
「今のが、お前の言っていた子供か」
「はい」
私も斎藤さんも、お互いの顔を見ず、彼が去っていった方を見て、言葉を交わした。
「芹沢さんは、来ないぞ。
絶対に」
「……分かっています」
きっと、あの子は私の言葉を信じて、芹沢さんが来るのを待つと思う。
ずっと、ずっと……
だけど、芹沢さんがあの子の元に行くことは2度とない。
それを知った時、あの子はどれだけ悲しむだろう……
「悲しむだろうな、あの少年は」
「そうですね……」
だけど、と言って私は斎藤さんの顔を見上げた。
「私は、その悲しみを背負って生きていきます。
それが、私の選んだ道ですから」
いつか、斎藤さんが言った言葉。
その言葉の意味が、少しだけ分かるような気がした。
「さあ、帰りましょう。
あんまり遅いと、土方さんに怒られちゃいますから」
そう言うと、斎藤さんはフッと笑った。
「ああ、そうだな」
青く清い空の下、私達は屯所に向かって再び歩き始めた。
新しい悲しみを背負って……