天狗娘は幕末剣士


すると、彼は嬉しそうに笑って、家へと帰って行った。




私も、その後ろ姿を見送って立ち上がった。




「今のが、お前の言っていた子供か」




「はい」




私も斎藤さんも、お互いの顔を見ず、彼が去っていった方を見て、言葉を交わした。




「芹沢さんは、来ないぞ。

 絶対に」




「……分かっています」




きっと、あの子は私の言葉を信じて、芹沢さんが来るのを待つと思う。




ずっと、ずっと……




だけど、芹沢さんがあの子の元に行くことは2度とない。




それを知った時、あの子はどれだけ悲しむだろう……




「悲しむだろうな、あの少年は」




「そうですね……」




だけど、と言って私は斎藤さんの顔を見上げた。




「私は、その悲しみを背負って生きていきます。

 それが、私の選んだ道ですから」




いつか、斎藤さんが言った言葉。




その言葉の意味が、少しだけ分かるような気がした。




「さあ、帰りましょう。

 あんまり遅いと、土方さんに怒られちゃいますから」




そう言うと、斎藤さんはフッと笑った。




「ああ、そうだな」




青く清い空の下、私達は屯所に向かって再び歩き始めた。




新しい悲しみを背負って……




< 118 / 268 >

この作品をシェア

pagetop