夜が明けたら、君と。
「彼の名前で呼んでもいいよ?」
不愉快だ。目の前の相手を違う名前で呼ぶほど、私は落ちぶれてはいない。
「嫌よ。あなたの名前は?」
彼は一瞬驚いたように私を見つめ、口元を緩めて笑う。
「イチヤ。君は?」
一瞬偽名かと思ったけれど、彼には似合いな名前にも思えた。
「……ニイナ」
「ニイナ、綺麗だ」
キスを受け入れながら、いつの間にか彼の指から指輪が消えていることに気づく。
さすがに、他の女を抱くときに外すくらいの配慮はあるのかと思ったら、この男に好感がわいた。
彼の上半身を撫で付けながら、私の髪を拭き続ける彼の顔が快楽で歪むさまを見て、どこか満たされた気になる。
だけど、優位に立っていたのはほんの束の間で、気がついたらベッドに組み敷かれてかすれたような声を上げ続けていた。
「イチヤ」
「ニイナ」
名前を呼ぶと呼び返される。
名前など単純なる記号なのに、繰り返されることで感情が高まっていくのはなぜなのだろう。
イチヤの行為はとても丁寧で優しかった。彼よりもずっと。
もしかしたら本当に愛されているのではないかと錯覚するほど。
一夜限りの相手に、そう思ってしまうことが悲しくて。
慰めのはずの夜は、私の胸を切なく軋ませた。