リライト
「ありがとう、一樹のおかげだよ」
「俺じゃない、多恵が頑張ったからだよ」
照れ臭そうに笑って、一樹がカップを取り上げた。口元に運んでそっと息を吹きかけると、芳しく優しいコーヒーの香りが漂ってくる。
式場の下見を終えた帰り道、小さなカフェに立ち寄った。付き合い始めて間もない頃、私を家に送ってくれる途中で見つけた店。以来、お気に入りになって頻繁に立ち寄ってる。
控えめな花壇のある外観は、住宅街に上手く溶け込んでいる。木のぬくもりに溢れた店内に灯る淡いオレンジ色の照明が、カップの中で揺らめくコーヒーに温かさを添えている。
コーヒーの揺らぎを眺める視界の端に影が映り込んだ。顔を上げるのと同時に、甘い香りを放つプレートがテーブルの上へと静かに降りてくる。
「お待たせしました、シフォンケーキです」
ふわりと微笑んだのは、この店のオーナー。この店を人に例えるとしたら、きっとこんな人になるんだろうと思えるような人。