俺様魔王の甘い口づけ


嘘つき!
魔王以外は人間の血を吸わないって言ったのに!

確かに、危険だとは言ってたけど…。



私は思わず目を閉じる。
しかし、やってくるはずの痛みを感じない。
その代わりに聞こえてきたのは、魔物の断末魔。
そして、生暖かい液体が頬にかかる感覚。
それには、覚えがあった…。



「え…」




恐怖で確かめたくないけど、仕方なく目を開くと、想像していた通りの光景が広がる。
身体を一刀両断に切り裂かれまるで物のように横たわる魔物。
生暖かいものは、この魔物の血だ。
まただ…。




「こんなところでなにをしておる」





そして聞こえてきた、感情のない冷たい声。
聞きたくなかった。
会いたくなんてなかった。




「おい」

「…放っておいて!帰るの!帰るんだから!」

「帰る?貴様に帰るところなどあるのか」




あるわよ!
こんな血も涙もないような世界じゃない。
大切な友達や家族がいる世界が。
もっと明るくて、もっと暖かい世界。




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