めぐりあい(仮)





「蓮哉…」




「…何?」




頬は赤くなっていて、


口の横を切っている。


目尻に絆創膏が貼られ、


血も滲んでいる。





「ごめ…」




痛い思いをさせた。


会いたかった。


あたしの勝手な行動で、


彼を傷付けてしまった。


こんなつもりじゃなかった。


困らせるつもりも、


傷付けるつもりもなかった。


痛々しい顔に手を伸ばす。





「顔…傷が…」




「触んな」




もう少しで触れそうな所で、


蓮哉はひょいと顔を背けた。


きっと蓮哉は怒ってる。


あたしが勝手に会いに来たことも、


声をかけたことも、


自分で何も出来なかったことも。





「もうお前とは会わない」




「え…?」





忙しそうに警官が歩き回る。


みんな普通に過ごしている。


どうしてあたしたちの間だけ、


こんなに冷たいのだろう。





「会わ、ない?」




「もう電話も出ないし、会うこともない」




「何、で……」






突然言い捨てられて、


あたしは目の前が真っ白になった。


どうしても信じたくない。


もう会わないなんて。


もう会えないなんて。


嘘だよね?


冗談だよね?


ねぇ、蓮哉…。


騙されてんなよって、


笑いながら言ってよ。


会わないなんて嘘だって。


今のなしって、言ってよ…。






「君たち」





そこにやってきた警官と、


1人のスーツの男の人。


てっきりお母さんが来ると思ってた。


なのに目に入って来たのは、


革靴の男の人。


まさか。


あたしは下から上へ視線を上げる。


視界に入ったのは、


さっき事情聴取した警官と、


久しぶりに見た悠太郎。






「帰っていいぞ」





もう騒ぎを起こすなよ。


警官はそう言い残し、


悠太郎に頭を下げて


去って行った。


この場に悠太郎がいることが、


不思議というか何と言うか。





「木嶋さん、すいません」





「田山が悪い。蓮が謝ることはない」





とりあえず外に出よう。


悠太郎がそう言うから、


あたしたちは立ち上がり


出口に向かう。


未だに頭の中が困惑している。


何で悠太郎がいるのか。


こんな形で、会いたくなかった。


だって悠太郎は、


蓮哉のことになると、


敏感になるから。






「何で木嶋さんが?」




「あいつらから連絡をもらった。会社を出ようとしたら、サイレンも聞こえて来たし」





すいませんと謝る蓮哉と、


気にするなとなだめる悠太郎。


だけど思っているより、


悠太郎は怒っていて。






「ところで何で、お前らが一緒にいる?」





何の前置きもないまま。


駐車場の悠太郎の車の前で、


そう告げられて。





「妃名子、何で?」





そう問われ、何て答えようか


迷っていると。





「たまたまっすよ。じゃ、俺帰るんで」





お疲れ様でした、と、


蓮哉は悠太郎に軽く頭を下げ、


あたしを視界に入れることなく


去って行く。


あたしは何も言えず、


何も出来ず、


ただ去って行く蓮哉の背中を


見つめるだけ。


待って、まだ何も伝えられていない。


言いたいこと、たくさんあるの。


何を言われても、何をされても、


まだ蓮哉といたいの。





「蓮っ…」




「妃名子!」





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