めぐりあい(仮)






突然悠太郎は、


あたしの腕を引き、


自分の車に押し付ける。


背中に少し痛みを感じ、


冷たさが体を包む。


じりじりと近付く距離。


逃げ場がないこの空間で。





「説明してよ」




「悠太郎、待って…」




「待てない。説明してみてよ。どうしたら、2人ともこんなことになる?」





いつかの悠太郎の家で、


蓮哉のことを好きかと聞かれた時。


あの時と同じ顔をしている。


いつも穏やかな悠太郎が、


蓮哉のことになると、


すごく怖い顔になる。





「言ってみろよ」




「悠太郎…、」




「答えられない?」





立て続けに聞いて来る。


何て答えたらいいの。


何を言えばいいの。





「悠太郎、落ち着いて…っ」




「答えろよ。何でいたんだよ、妃名子っ!」





目の前で怒鳴る悠太郎に、


驚いて怖くて声が出なくなった。


ごめんなさい。


悠太郎まで怒らせてしまうなんて、


考えてもみなかった。






「木嶋さんっ…」





悠太郎との距離が急に空き、


代わりに目の前にあるのは、


大きな背中。


少し息を切らしているのか、


漏れる息がすぐ近くで聞こえる。





「蓮、退け」




「嫌です。退きません」





夏のバーベキューの時のように、


蓮哉はあたしと悠太郎の間に入り、


あたしを庇うように立っている。


去って行ってしまったと思った蓮哉が、


目の前にいるのが夢のようだ。






「何でいつもこいつを責めるんですか」





「蓮には関係ない」





「もっと優しく出来ないんですか?」





「蓮…何言ってる?」





2人が言い合う。


あたしは蓮哉の後ろで涙を流す。


出来るなら今すぐ蓮哉に寄り添いたい。


あなたが好きですと、


縋りたい。






「妃名を責めるなら、俺に言えばいいじゃないですか」




「蓮、これは俺と妃名子の…」




「妃名子は何も悪くない。これ以上こいつを責めるなら、木嶋さんの傍に置いておけない」





帰るぞ。


蓮哉はそう言うと、


あたしの手を握り、


悠太郎の前を立ち去った。


繋がっている手から、


あたしの想いが全部伝わればいいのに。


蓮哉の思いが全部知れたらいいのに。


何でこんなに愛しいんだろう。


何で蓮哉がいいんだろう。


口も悪いし、不器用だし、


優しい時なんて米粒くらいの


大きさくらいしかない。


意地悪だし、横暴だし、


何かにつけて命令してくるし。


なのにあたしは、


いつの間にか蓮哉を好きになっていた。


意地悪な蓮哉も、


不器用な蓮哉も、


優しい蓮哉も、


全部全部愛しい。






「蓮哉…」





ふと頭に過ぎる。


さっき蓮哉が言った、


もう会わないという言葉。


電話も出ないし、


会うこともない。


そんな言葉を冷たく言い放っておきながら、


こうやってあたしを庇ってくれる。


優しくしてくれる。






< 95 / 152 >

この作品をシェア

pagetop