めぐりあい(仮)





「怪我大丈夫?」




「大したことないよ」





あれから、帰るなり、


ろくに手当てもせずに


放っておいたせいか、


いつの間にか傷が少し


膿んでしまった。


それを見る度に、


思い出す。


冷たい空気を残して去って行った、


蓮哉のことを。





「本当に今日行くの?」




「うん。ぐずぐずしてられないし」





鞄を持って帰る支度をする。


立ち上がろうとする鳴海を制し、


1人で玄関に行くと告げる。


やっとの思いで、


悠太郎に連絡をした。


この3日、ずっと考えたけれど、


もうこのままの状態を


続けるわけにはいかない。


そう思った。






「怪我が治ってからでもいいのに」




「ううん。中途半端なままだから、蓮哉にも分かってもらえないんだと思うし」





何より、もう悠太郎といられない。


本気で蓮哉を想ってるから。





「行って来る」




「うん、いつでも連絡してね」





心配そうにする鳴海を置いて、


あたしは学校を後にした。


何度この道を歩いただろう。


そんなことを考えながら、


悠太郎の家に向かった。


何度も道に迷ったりしたなとか。


何か作ろうと買い物しにお店に寄ったり。


家の近くで待ち合わせしたり。


たくさん思い出が、


この道にはある。


あたしは悠太郎が、好きだった。




「もしもし」




『もう学校終わった?』




「うん。今向かってるからね」





初めてここを通った時は、


ドキドキして足が震えた。


制服であろうが、夏だろうが、


冬だろうが、あたしは


胸を張って歩けた。


だけどもうあたしは、


この道を通ることはないと思う。


この1歩1歩が、


全部最後になるんだ。






「早かったね」




「そう?遅くなったと思ったんだけどな」




お邪魔します。


ここに来て、久しぶりに


そんなことを言った。





「お腹空いてない?俺何も食べてなくて」




「うん、大丈夫。家で食べるから」





長居はしない。


今日は告げるだけ。


さよならを、言うだけ。





「悠太郎、これ」




「何?」




「悠太郎が好きな物買って来たの」





あたしは手に持っていた


袋を机の上に置く。


最後だから、とあたしは


こういうことをしてしまう。


さよなら、とだけ伝えて別れるのは、


何だか少し違う気がして。





「これは悠太郎の好きな飲み物でしょ?それから、これはブラックコーヒー。これはね、疲れた時に飲めるように栄養ドリンク」





いけないと思った。


買って来たものを広げながら、


少し涙ぐむあたし。


今日は泣かずに、


さよならする。


そう決めていたのに。





「風邪引いちゃったらだめだから、のど飴と風邪薬ね。それから…」




「妃名子、待って」




「あ、これね、あたしの好きなお菓子なの。よかったら、食べて」




口が止まらない。


ここに来るまではずっとずっと強気で。


さようなら。


そう言うだけのはずだった。






「後はね、」




「妃名子。どうしたんだよ…」





この部屋にはたくさんの思い出がある。


悠太郎の過ごした、たくさんの思い出。


それが無くなることが嫌なんじゃない。


悠太郎を置いて行くのが、


少しばかり不安なの。





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