めぐりあい(仮)






「今日は言わなきゃいけないことがあって来たの」




「…何?」





空気が張り詰める。


なかなか口が上手く動かない。


どうしても言葉よりも、


頭を過ぎるものがある。


大人なのに、


すごく子どもっぽい所がある。


この人を1人にするのは、


本当に不安で心配。






「悠太郎がいたこと、あたしの何よりの誇りだった」




「誇り?」





あなたがいることは、


あたしの支えでもあり、


強さにもなっていた。


悠太郎がいるから、


頑張っていける。


そう思ってた。





「出会ってから今までずっと、悠太郎のことを考えなかった時はなかった」





起きた時も、朝ごはんの時も、


授業中も、放課後も、寝る時も。


ずっとずっと、悠太郎のことで


頭がいっぱいだった。





「考えが大人な悠太郎も、少し甘える悠太郎も、拗ねたり怒ったり、喜んだり笑ったりする悠太郎も。全部知ってる」





この人は、


みんなが思ってるほど、


素晴らしい人じゃない。


弱い部分をたくさん持ってる。


普通の人。






「あたし、悠太郎を好きになってよかったって本気で思ってる」




「妃名子、待って」




「夏に1回言ったけど。…ごめんね。もう一緒にいられない」





夏に告げた、あの時とは違う。


もう何があっても、


揺れたりはしない。





「別れて下さい」




「妃名子…嘘だよな?」





信じられないという顔をする


悠太郎に、首を振って見せる。


中途半端なあたしは、


もうここにはいない。





「ごめんなさい」




「妃名子…!」





少し悠太郎が声を大きくした時。





「悠くーん?お客さん?」





玄関の方で女の人の声がした。


すぐに分かった。


それが恵莉香さんの声だということも。


やばい状況だということも。






「誰か来てるの?……妃名子、さん?」





何でいるの、と言いたげな顔で


あたしを見つめる恵莉香さん。





「こんばんは…お邪魔してます」




「お久しぶりね。どうしたの?」




「あ、えっと……蓮哉が、あの…」





急なことに驚いて、


嘘を付くことすら出来ず、


言葉が出なくて詰まってしまう。


どうしよう。


そう思った時、


助け舟を出してくれたのは


悠太郎で。





「蓮哉も呼んで、丁度ご飯でも行くかって話してたんだ」




「あら、そうだったの?ごめんなさい、お邪魔しちゃって」





いえいえ、そんなこと。


愛想笑いで取り繕うあたし。


何やってんだろう。


何笑ってんだろう。





「あ、でも」





とりあえずこの状況から、


どうにか逃げ出さないと。


そう思ったあたしは。





「蓮哉来れないみたいで…、だから、その…失礼しますっ、」





何とか帰る言い訳をし、


なりふり構わず家を飛び出した。


未だに心臓がバクバクしている。


まさか恵莉香さんが、


家に来るなんて思いもしなかった。





「あたし、怪しかったよね…」





どうすることが正解だったのか、


分からないまま。


来た道を逆戻りする。





「ふぅ…」




だけど、一応別れは告げた。


悪いとは思うけど、


少しすっきりしている。


時間が経てば、あたしのことなんて、


思い出にしかならなくなる。


悠太郎もきっとすぐに忘れる。


こうなってよかったんだ。


こうなって…よかったんだ。





「…ムカムカする」





冷たい風が吹く中。


あまりの驚きに、なぜか


気持ち悪くなって、


歩みを止める。


吐いてしまえば楽なのに、


なかなか吐けずにしゃがみ込むだけ。


終わったのはいいものの、


少し後味の悪い終わり方。


だけどそれもそれでまたいいか、なんて。


そんなことを考える自分がいた。





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