生えてきた男
 それからというもの、俺の目的は走る事よりも、その声の主を突き止めたいというものに変わっていた。

 茂みの中に入って確かめてみよう。

 何度もそう考えた。

 しかし、俺は自分でも情け無いほど臆病だ。

 相手が人間ではなかったらどうしよう。

 犬が言葉を喋るか?

 答えはノーだ。

 バケモノだったら?

 ありえるかもしれない。

 地面近くの低い位置から聞こえてくる、地を這うような低い声。

 「こんばんは」

 唐突に声を掛けられ、俺は必要以上のリアクションで驚いた。

「あっ、すみません。脅かすつもりじゃなかったんです」

 そう言って恐縮している男は、1週間ほど前から親しくしているジョギング仲間の叔父さんだった。

 俺の親父くらいの年齢で、かつて俺がそうだったように、叔父さんもコースを逆走していた。

 ちょっとだけ先輩ランナーだった俺は、方向が逆だと教えた。

 それからというもの、途中で見掛けたら、言葉を交わす仲になった。

「すみません、ぼーっとしてて」

「このコース、もう少し外灯が明るかったらいいんですけどね」

 確かに暗い。

 走っている仲間がいるからいいが、これが独りっきりだったら遠慮したい場所だ。

「もう走り終えられた所ですか?」

 既に3周走り終えていた俺は「はい」と言って別れを切り出そうとして言葉を呑み込んだ。

「一緒に走りましょう」

 俺は叔父さんを誘った。










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