生えてきた男
「いいんですか?」

 チャンスかもしれない。

 俺一人では確認する事は無理でも、叔父さんとだったら茂みの中に入って、声の主を探す事が出来るかもしれない。

「すみません。私の遅いペースじゃ、かえって疲れるでしょう?」

 確かに、叔父さんは走るのがゆっくりだ。

 普段なら俺のペースには合わない。

 一言二言話して、それじゃお先にと先に行く事が多い。

 だが今は、既に3周走り終えて疲れている。

 叔父さんのペースくらいが心地良かった。

「ゆっくりのんびりが長続きの秘訣です」

「そうですか。いや、君のような若者と知り合いになれて嬉しいよ」

「お住まいはお近くなんですか?」

「ええ。すぐ近く。あそこです」

「えっ? あのタワーマンションですか?」

「はい」

 それは、公園を出てすぐの所にそびえている、30階建ての高級マンションだった。

「あの、最上階に引っ越して来ましてね。バルコニーから池が見えるんですよ。それと、走っている人も。それで私も走ってみようと思いましてね」

「そうだったんですか」

「それにしても、どうしてこの公園は池を隠しているのでしょう」

「えっ?」

「いえね、上からだったら池はよく見えます。だけど、地上に下りたらどうですか? 木が邪魔をして、歩道からは池が見えないじゃないですか」

 確かにそうだ。

 初めての人から見たら、公園の中央に大きな池があるなんて、想像出来ないかもしれない。

 まるで、池自身が、人を避けているかのようだ。




< 5 / 10 >

この作品をシェア

pagetop