生えてきた男
 夜の池は、人を吞み込んで、水の奥深くに誘いそうな気さえする。


 そう言っている間に、例の場所の近くまで来た。

 そもそも、俺以外の人間に、あの声は聞こえているのだろうか。

 もし、俺にしか聞こえない声だったら、きっと何かの音を聞き間違えているだけなのだ。

「今、何か聞こえませんでしたか?」
 
 俺が言おうとした言葉を、叔父さんが先に口にした。

「私の空耳かな・・・」

「何と、聞こえましたか?」

「マサヒコ・・・と。やっぱり君にも聞こえていたんだね?」

「えっ?」

「君は今、何と聞こえたかと質問したでしょう。君自身が聞こえたものと、私に聞こえたものが同じかどうか確認したかったような聞き方だ」

「すみません。あの、お願いがあります」

「お願い?」

「あの声の正体を一緒に確認してもらえませんか?」

 俺の恐怖は増した。

 その声が、俺だけではなく、他の人にも聞こえていたという事実を突きつけられたからだ。

 もう、空耳だとか、気のせいだとか言えなくなってしまった。

 実際に何かいるという恐怖。

「いいですよ。私もね、気になっていたんですよ。だけど、独りじゃ怖い気がして」

「俺もです。バケモノだったらどうしようとか思ってしまって」

「バケモノ? いや、さすがにそれはないでしょう。ちょっとここで待っていてもらえますか?」

「えっ?」

「家から懐中電灯を持って来ます。茂みの中は暗くて何も見えませんから」

「ありがとうございます」

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