それが愛ならかまわない
一瞬嫌味かとイラっとしかけたけれど、そう言えばさっき泣き喚いておまけに椎名のスーツに顔を押し付けた気がする。彼の着ていたジャケットを見ても、脱いだ状態でしかも色が濃いので汚れているかどうかは分からなかった。
「ちょっと待ってて」
「どうぞごゆっくり」
空き缶を片付けてから慌てて洗面所に飛び込んで鏡を見ると、確かにアイラインは滲んでガタガタになっているしグロスも完全に剥げていてさっきの暴言も納得の酷い顔だった。目の下が薄黒く染まっていて、落ちたマスカラやアイラインなのか隈なのか既に判別がつかない。こんな顔を椎名に晒した挙句、そのまま真っ昼間の外を歩いて帰って来たなんて一種の罰ゲームだ。もっと早く言ってくれれば良かったのに。
クレンジングオイルを馴染ませて顔を洗うと汚れたメイクと一緒に気持ちの澱が流れていった様で、少しだけさっぱりした。そのまま椎名の勧めに従ってシャワーを浴びる。余り考える時間を作りたくはなかったけれど、昨夜徹夜で仕事をしていて帰宅していないのでそのまま勢いで雪崩れ込むのはさすがに抵抗がある。
さっぱりした後は下着とキャミソールだけを着て洗面所から出た。前回だって散々見られているし、今からする事を考えたら今更素肌を晒す事ややすっぴんをためらう関係じゃない。
寝室に戻るとワイシャツのボタンを外し、ネクタイを緩めた椎名がベッドを背もたれにして片膝を立て床の上に座っていた。テーブルの上には外した眼鏡と腕時計、そして開けられないままの発泡酒。