それが愛ならかまわない
「……え」
その顔に見覚えがあった。
記憶の中を必死でたどる。どこで見た?どこで会った?
相手も何かを思い出すように目を細める。
────あ。
思い出した。
飲み会で。
いつも隅の席に。
向こうも何かに気づいたようだった。片眉が動いてじっとこちらを眺めている。
まずい!!
「莉子ちゃーん、そろそろ中よろしく」
「は、はいっ」
絶好のタイミングで裏口のドアが開き、チーフの小野さんに呼ばれた。
慌てて動いたので脚がドアの脇に置いてあるゴミ箱にぶつかってガタンと大きな音を立てる。その場に突っ立ったままの元恋人にはもう目もくれず踵を返し、私は甘いバニラの香りが漂う裏口へと飛び込んだ。
心臓はまるで走った後のような早さで打っている。