それが愛ならかまわない

「今日は夜も予定があって……来週どうですか」


「よし。じゃあ来週な」


 約束を取り付けてスマホを取り出そうとした時、視界の端に見覚えのある人物が映った。
 染めていない黒髪に細いメタルフレームのお堅い眼鏡。間違いない、昨夜の彼だ。


「長嶺さん、ごめんなさい。ちょっと急ぎで同期との打ち合わせがあるんです。後で連絡しますね」


 手を合わせるジェスチャーをして、私は目当ての彼へと走り寄る。


「あのっ、良かったらお昼ご一緒しませんか」


 その腕にしがみつくようにして、小声で囁く。長嶺さんが歩き去っていくのは確認したけれど、打ち合わせを口実にした以上万が一にも聞かれるわけにはいかない。
 とりあえずその後ろにもう人が出て来る気配がないのは好都合だった。それ故この機会を逃すわけにはいかないので、身体でその進路を塞ぐようにして精一杯の笑顔を振る舞う。
 声をかけられた相手はと言えば、突然飛び出してきた他部署の女にも顔色一つ変えなかった。眼鏡のせいか冷ややかに見える視線が確認するように私の顔をなぞる。


「……昨日の話?」

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