それが愛ならかまわない
「……カレーで良い?」
店を決められず焦っている私を見かねたのか、椎名はそう提案して返事を聞かずに歩き出す。
「あっうん。でもあの、あんまり人が来ないというか静かな店がいいかなって……」
「滅多に人なんか来ない所だから」
この近くにそんな店があっただろうか。
そう思いながらも時間がないので小走りに着いて行く。
彼は歓楽街の通りに入ってすぐにある古ぼけたビルの狭い階段を登って行った。サラリーマン狙いで昼間でもランチを出すバーや居酒屋は多いけれど、このビルは表には何の看板も出ていない。
階段を登ると濃い色の木のドアがあった。細い磨りガラスが嵌めこまれていて、中に明かりがついている事が分かる。
外と同じくこの入り口にも何の案内も出ていなかったけれど、躊躇わず椎名は無言のままそこを開けた。チリンとドアに取り付けられていたベルの音が鳴る。
「おっ。いらっしゃい」