それが愛ならかまわない

 ドアの向こうはバーだった。カウンターが七席、テーブルが五つ、どれもシンプルながらお洒落なデザインでシックな雰囲気を醸し出している。ライトを反射して光沢を放つ御影石のバーカウンターの向こうには店員が一人。その背後の棚に酒の瓶がずらっと並んでいた。
 店内にお客は誰もいなかった。看板も出ていないのだ、言われなければランチ営業しているなんて思わない。一見では絶対入って来ないだろう。


「二人分」


 慣れた様子でそう言うと、椎名は勝手にカウンター横のミニ冷蔵庫からおしぼりを取り、テーブル席の一つに腰掛けた。知り合いの店なんだろうか。一人でこういう所に飲みに来るタイプには見えないけれど。
 突っ立っているわけにはいかないので向かいの席に座り、差し出されたおしぼりを受け取る。


「で、何か用?」


 手を拭いておしぼりを置こうとした絶妙なタイミングで本題を切り出された。
 椎名がどんな反応をするか分からないけれど、覚悟を決めなくちゃいけない。引きつりそうになる顔がばれないようにこっそりと深呼吸する。


「……昨日の事なんだけど」


「路上で怒鳴ってたのなら偶然見てた」


 恐る恐る尋ねてみると、簡潔な答えが返ってくる。
 やっぱりあれは椎名で間違いなかったらしい。

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