それが愛ならかまわない

「何かありました?」


「大丈夫ならいいけど……無理すんなよ。辛かったら誰かに代わってもらって帰って寝てろ」


 立岡さんはそう言うけれど、私の仕事は即ち私の居場所でもある。そう簡単に人に転嫁していいものじゃない。バイトをしても仕事に影響させないのは自分自身に立てた誓いでもあるわけだし。


「これ、KBコーポレーションからの変更依頼書のPDF、潰れてて細かい所見えないんだ。印刷すると余計潰れるんでもう少しはっきりした奴送ってもらって欲しい」


「分かりました、連絡しておきます」


 そこで私は立岡さんの後ろに立つ女性に気がついた。
 見覚えのない顔。全社員を把握しているわけじゃないけれど、少なくともこのフロアのメンバーじゃない。


「あと彼女。今度吉田君の所から来てくれる事になった溝口さん。うちで作業してもらうから。この案件からやってもらう」


 吉田さんというのは協力会社から派遣されて来ていて常駐しているプログラマーだ。
 立岡さんのチームは殆どが協力会社の人間で構成されている。ということは彼女も同じ技術者なんだろう。

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