君と奏でる音[前編]
孤乃羽-side-
初めてクラシックを聞いたのは3歳の頃。
母さんが子守歌にと買ってきたアルバム。
その中にこの曲があった。
なぜ春の歌か?
そう思うでしょ?
母さんはメンデルスゾーンが好きだったの。
ピアノで弾くのは彼の曲ばかり。
小学校に入ってピアノを始めて、母さんに聞いた。
『ベートーヴェンは弾かないの』って。
そしたらあの人なんて答えたと思う?
『彼は私を愛していないの。私と合わないわ』だって。
笑っちゃうよね。
曲は奏者が作曲者を愛すのに、母さんは反対なのね。
でもそんな母さんの弾く彼の曲は素晴らしかった。
私を生んだ後でもコンクールに必ず出て優勝していたわ。
まさに彼と母さんの二人三脚の演奏よ。
母さんは彼を愛し、彼の曲もまた母さんを愛した。
それは聞いた人にも伝わって心を打たれていたわ。