君の名を呼んで 2
***
私は結局、特急電車で帰って来た。
だって早いし。お金もったいないし。
いくら経費って言ってもらったって、平社員の私が仕事でもないのにタクシーなんてとんだ贅沢だわ。

そして自宅の最寄り駅に着いた私を待っていたのは。

「雪姫」

要だった。


「……ストーカー?」

疑惑の目で見る私に、要はコラコラ、と顔を引きつらせた。

「お前が言ったんじゃないか、昨日から旅行に行くって。今日泊まるはずだった宿、俺が薦めたところだろ。あれうちの親戚のうちなんだ。急にキャンセルになったって言うから、どうしたんだろうって」


そう、本当は一泊ずつ宿を変えて二、三日、楽しむ予定だった。
結局は一日で帰ってきちゃったんだけど。
あれ、要の親戚のうちだったんだ。悪い事しちゃった。

「ごめん。彼の、仕事で……」

そう言ったら、要は悪戯っぽく笑う。

「そんな事じゃないかと思ってメールしたんだ」


電車に乗る前に、要にはメールをもらっていた。
予定を聞かれて、“これから東京に帰ります”って送った気がする。
けど、それだけで?

「実は何時間かここに居た」

「やっぱり、ストーカー……」

「……雪姫が、泣いてるんじゃないかと思って」


その言葉に、息が詰まった。
要の優しい視線は、私に向けられていて。
子供の頃に戻ったような錯覚をしそうになる。

「泣かないよ……。泣く理由なんてない。要、私はそんなに弱くない」

「そう思い込もうとしてるだけじゃないの?」


彼が私を包み込もうとしているのが伝わって来る。
子供の頃と同じなようで、けれど違う感情を持って私を見ている。
ーーもう気付いてしまった。

嬉しくないわけじゃない。でも、


「要、私は応えられないよ」


今、言わなきゃ。
ちゃんと。
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