囚われの姫


「大和さん、奥さんがいるんですか?」

少し疲れた様子で私の部屋に来た彼にお茶を出しながら聞いてみた。

すると、彼は珍しくきょとんとした顔をした後かなり不機嫌になった。

「真理花は、俺が妻がいる身で他の女性の部屋に転がり込むような男だと思ってるということ?」

彼が私を責める理由がわからない。
自分の素性を秘密にしているのは彼の方だ。

「違うんですか?」

「当たり前だ。俺はそんなに暇じゃない。」

「…へぇ。」

「ほぼ毎週来ているのに、結婚している方が不自然だろ。」

嘘か本当かは分からないが、どっちにしても妻などいないと言うに決まっている。
だが、もし彼が結婚していたら、私は不倫しているということになるではないか。
一夜限りの関係であれば正直既婚者でも構わないが、関係が続いているこの状況となれば話は別だ。
流石に私もそれくらいの分別はある。
他人の家庭を壊すことはしたくない。

「私、不倫は嫌です。
私の家もそうだったから。私はあんな女にはなりたくないです。」

私の父親は、不倫がバレて母親と離婚した。
しかし、母親も不倫していたと後から発覚し、両親は別々の家庭をつくりたいがために私を捨てた。

そんな私を育ててくれたのは、母方の祖母だ。
祖母はまともな人だった。
私に愛情を与えてくれたのは祖母だけだった。


「真里花、俺の話を聞いていたか?俺は結婚していないし、妻もいない。」

「本当ですか?私は何を根拠に大和さんが嘘をついてないと信じればいいんですか?」

「前に言っただろう。俺は、縛らずに抱けるのは真里花だけだ。」

「…それが、何?」

「だから……」

彼は歯痒そうに髪をクシャりと掻くと、真っ直ぐに私を見つめてきた。

「俺にとって真理花が特別ということだ。」

だから?と聞き返したいところだ。
やっぱりなんの根拠もない。

特別って何?
私の気持ちは、"特別"程度で済まされるような生易しい感情をとっくに通り過ぎてしまっている。
彼との気持ちの差が分かり、また胸に刺さったナイフが1本増えた。

だけど、これ以上あなたに過ちを犯して欲しくない。
私は、あなたのことを何も知らないのだ。知る権利も与えられていない私のことなんてもう放っておいて欲しい。


「じゃあ、どうして私に何も教えてくれないんですか?あなたは私のことを全て知ってる。でも私は、……私は何も知らない………っ 。」

「……真里花。」

「私は、あなたが何をしている人なのか、どこに住んでるのか、年齢さえも、何も知らない。あなたの名前しか分からない。」

「すまない。でも、本当に俺は結婚していないんだ。
それだけは、信じて欲しい。」


彼が頭を垂らして、私にお願いしている。

惚れた弱みとは、恐ろしい感情だ。
彼がそう言うなら、と信じてしまいたい。
私は彼を信じたい。


「…分かりました。じゃあ、今日は縛らないで最後までしてください。
あなたの言う事が本当だって、私に証明して。それが出来ないならここから出ていってください。もう、二度とこの部屋に来ないで。」


彼は私の言葉に泣きそうな顔をしている。
どうしてそんな辛そうな顔をするの?
私だって辛いのに。

あなたは、玩具が自分から逃げようとしていることが辛いだけ。
私じゃなくてもいいんじゃないの?


「…真里花、泣かないでくれ。頼むから…。」

彼は私の頬を優しく撫でてくる。
私は彼の前で初めて泣いていた。

「真理花は思い込みが激しいからね。一筋縄では行かないところも俺好みで最高だな。」

私を抱き抱えた彼は私をベッドに連れていく。
私のせいにして自分はさも正しいように振る舞う姿は本当にずるい。
でもすべて受け入れてしまうのだ。"全部私のせいにしても構わない"と心の奥で浅ましい気持ちが叫んでいる。

「泣くほど思い詰めていたなんて、可哀想に。
大丈夫だ。
俺には真里花だけだから。」

ベッドに降ろされると、頬の涙を舐められた。
そのまま、ペロペロと顔から首筋へと舐められている間、大人しくしている。

彼はきっと最後まで出来ないはずだ。
ただでさえ、今日の彼は疲れている様子だ。

彼と一回目から縛らずに体を繋げたことはほぼない。
久しぶりにした時や、彼がかなり泥酔している時など、彼の性欲がMAXの時だけなのだ。

それでも、彼は私に誠意を見せようとしている。
私に信じて欲しいと心から願っていることが伝わってくる。


「…大和さん、……ごめんなさい。」

「真里花…大丈夫だから。俺を信じてくれ。」

「お願いです、無理はしないで。…私、大和さんを傷つけるつもりはないの。」

「でも、こうしないと俺を信じることが出来ないんだろう?」


彼の言葉に首を横に振った。
私は分かっていた。
彼に無理難題を吹っかけたことを。
彼が出来ないと分かっていて酷いことを頼んだ。
彼を試そうとしている。
私は、自分の為に彼を傷つけようとしている。


既に私は全裸でベッドに横たわっていた。
彼も全て脱いで、お互いの肌を密着させて抱き合っている。

私にはそれだけで十分だ。

「…真里花は分かってない。俺にとって真里花がどれだけ特別なのか。」

彼は私の手を取り、自分の中心へと導く。
それは、少しだけ熱をもって形を変えようとしていた。
私の手で優しく撫でる。

すると、少しずつ硬さを増していく。

「大和さん、気持ちいい?辛くない?」

「気持ちよすぎて、辛いな。早く真里花のナカに入りたい。」

彼の言葉にまた涙腺が緩む。

「な?真里花となら、大丈夫だって言っただろう?」

彼が優しく微笑んでいる。
私の気持ちに応えようと、精一杯の気持ちを私に向けてくれている。


「…大和さん、好き。好きなの。」

「分かってるよ。」

「疑ってごめんなさい…。試すようなこと言ってごめんなさい…っ。」

「……じゃあ、俺を信じてくれるんだよね。俺をここから追い出すことはない?」

「…信じます。大和さんから
離れたくない………。」

「さっきは、自分から俺を追い出そうとしてたくせに。」


彼は嬉しそうに微笑むと、ゆっくりと体を繋げる。
彼を信じたい。

私はもう彼から離れられない……







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