囚われの姫
「……りか、……真里花。」
彼に優しく揺り起こされて、目が覚めた。
「大丈夫か?魘されていたぞ。」
「……大和さん?……あ、夢……か。」
昔の夢を見た。
祖母は1年前に亡くなった。
もっと、祖母に恩返しがしたかった。
もっと、祖母と一緒にいたかった。
祖母が亡くなってから、自分の存在価値が分からなくなった。
自分を求めてくれる人を探すために、バーに通った。
誰でもいいから、一緒に夜を過ごしてくれる人が欲しかった。
人と深く関わるのは怖いくせに、独りぼっちは寂しい。
矛盾した気持ちを発散するかのように。
男は女の震える体をあやすように抱きしめた。
「今の真里花には、俺がいる。何も心配ない。」
どれくらい時間が、経っただろう。
女はもう大丈夫だと言うよに男から体を離そうとしたが、それを拒むように強く抱きしめられる。
女は、安心しながら再び瞼を閉じて眠った。
彼は私にとって祖母以外では初めて傍にいたいと思えた人だ。
女を縛る性癖は仕方ないと思っているし、私は縛られると安心してしまうのだ。
お互いに歪んでいるから心が落ち着けるのかもしれない。
******
彼が布団から出る気配でぼんやりと目が覚めた。
彼は朝早くに仕事に出る。
まだ陽が出たばかりの時間。
無理やり体を起こすと、彼は私の家に置いてあるスーツに着替えていた。
「大和さん、おはようございます。」
「おはよう。…もう大丈夫か?」
昨夜私が魘されていたことを心配してくれているようだ。
何だかんだで気遣ってくれる彼に心が温かくなる。
「もう大丈夫。大和さんが抱きしめて眠ってくれたから。」
にっこりと微笑むと、彼もホッとした表情になった。
「本当に真里花の面倒をみれるのは、俺くらいだな。」
「大和さんの面倒をみれるのも、私くらいだと思うけど?」
「確かに真里花は縛られて喜ぶからな。胸も柔らかくて大きいから縛ると凹凸がハッキリするのがいいよな。」
スーツを着終わった彼の雰囲気が一気に色気を増す。
「……え、あの。」
彼はベッドにいる私の横に腰を降ろすと頭を撫でるように髪に指を滑らせ、私の髪を背中へ流す。
「肌が白くて柔らかいから縛った後に赤い跡が残りやすいのもいい。」
キャミソール1枚の私の胸元に顔を寄せ軽く吸われた。
彼が顔を離すと紅い跡がひとつ増えている。
「……大和さんは硬くてキスマーク付きにくいから嫌。」
「………」
「ねぇ、大和さんって何してる人なの?仕事忙しそうだけどジムに通ってるの?」
彼の体はとてもデスクワークをしている会社員とは思えない、がっしりとした体格をしているのだ。
「…俺のことは詮索しない約束だ。」
「ジムに通ってるかどうかも聞いちゃダメなの?」
「駄目だ。」
仕事を聞こうとすると、彼はいつもこうだ。
この前結婚しているかを初めて聞いた時はあんなに必死に弁解してくれたのに。
彼は狡くて酷い。
「そろそろ時間だから行ってくる。」
彼は話を切り上げるようにカバンを持つと玄関へと向かう。
私は慌てて後をついて行くと、靴を履き終えた彼は振り向いて私の名前を呼ぶ。
さっきまでの会話は無かったかのようにいつも通り彼は腕を広げて"おいで"と目を優しく細めた。
その中にゆっくりと体を預けると、抱きしめられる。
5分くらいしてようやく開放されてから、彼を見送る。
彼のことは未だに謎のことが多いけど、彼がどんなことをしていたとしても、私が彼を想う気持ちは変わらない。
彼がヤクザだろうと、犯罪者だろうと、私は彼の味方になる。
彼を信じると決めているから。
私の気持ちは変わらない。