囚われの姫


「…どうして、仕事教えてくれないのかな?」

「………あんたあの男は本当にやめときなって私は散々言ってるからね。」

同僚に相談してしまう私は、彼女のこともかなり信頼しているのだろう。

彼女は雰囲気が祖母に似ている。
だから親しみを持てるのかもしれない。

「でも、仕事とか個人情報的なこと以外なら何でも教えてくれるのに。」

「……へぇ。」

彼の体の傷を聞いたら、ちゃんと答えてくれた。
義理の父親にされた、と。
私の家庭環境を知っていたから彼も話しやすかったのかもしれない。

「じゃあ、"何してる人か教えてくれないなら別れる"って言ってやればいいのよ。」

「でも、その手はもうこの前使っちゃったから…」

「ああ、妻がいるのかいないのかってやつね。」

同僚は思い出したかのように笑い始めた。

「もっと言ってやればいいのに。もし、その男が犯罪者だったら、真里花も道連れにされるかもしれないって分かってるの?」

彼女はきっと分かってる。
私の覚悟を分かっていながら再確認している。

「分かってるよ。私は彼がどんな人であっても構わない。ただ、本当のことを教えてもらえないことが辛いだけ。」

「……本当、真里花って男運ないなぁ。あんな男の何がいいのか教えてもらいたいくらいよ。



彼女はどこか嬉しそうに、まるで彼のことを知っているかのように優しい目をしてそう言った。




******




最近彼は家に来ない。
私がこの前彼の事を聞いたからかもしれない。

もうここまま彼は来なくなってしまうかもしれない。
そしたら、私はどうなってしまうのだろう。

また寂しさを埋めるために夜の街に出ていくことが出来るのだろうか。
そんなことで彼がいなくなった辛さを埋めることなんて出来るのだろうか。


今日も彼は来ない。
連絡もない。


でも、これで良かったのかもしれない。
彼は私を信用していないのだから、いずれは私から離れるつもりだったに違いない。
その時が来たのだろう。
ただそれだけのことだ。
彼から"好きだ"とも"傍にいて欲しい"とも言われたことはない。

それが彼の答えだ。


彼に会いたい。
抱きしめてほしい。
彼に縛られて、私は彼のものだと感じたい。

独りは寂しいから、私を独りにしないで。

あんなに言ったのに。
好きって気持ちを伝えたのに。
せめて、彼から答えを聞きたかった。

涙を静かに流しながら目を閉じた。




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