ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
久遠さんは、泣いていなかった。
感情を高ぶらせたりしないし、
私を怒鳴りつけたりもしない。
表情はいつもと変わらないように見える。
それでも、土汚れた頬や雨に打たれる姿を見れば、
見た目以上に傷つき悲しんでいるのが、分かってしまう。
彼が私を責めなくても、
自分で自分を責めずにいられなかった。
私のせいで……。
私の不注意のせいで、久遠さんを悲しませてしまった。
ミカコさんだって、あんな小さな体で外界に出てしまい、
今頃震えているに違いない。
「帰るぞ」
久遠さんはもう一度促して、私に背を向け歩きだした。
マンションの外壁と、民家の古びた板壁に挟まれた狭い路地裏。
私なら普通に歩けるけど、
体の大きな久遠さんは、体を斜めにしないと通ることが出来ない。
一歩二歩と後ずさり、彼と距離を取った。
「夏美?」
久遠さんが、肩越しに振り向く。
「私……帰りません。
ミカコさんを見つけるまで、絶対に帰りませんから!」
「おいっ!夏美!」