ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
照れながらホチキスの替え針を取り出し、大箱ごと彼に渡した。
「ありがとう」と白い歯を見せ、
彼は爽やかに笑った。
見るからに好青年。
備品の不足は、庶務に連絡してくれたらすぐに届けるのに、
わざわざ自分の足で、保管庫まで取りに来たことにも好感がもてた。
ホッチキスの針を手に入れた彼は、なぜか帰らなかった。
私の仕事を勝手に手伝いだし、
色々と話し掛けてきた。
「田丸さんてさぁ……」
なぜか私の名前を知っている彼。
ここはひんやり寒いので、私は薄手のカーディガンを羽織ってきた。
首から下げている社員証は、
カーディガンの下に隠れて見えない。
それなのに名前を呼ばれて、
あれ?と不思議に思った。
それでも、怪しむことはなかった。
話したことがなくても、末端社員の名前まで覚えようとする、
そんなエライ人もいるのだと感心しただけ。