ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
 


ビールの泡のような雲の上に、
一人ポツンと立っていた。



すぐに、これは夢だと気づく。



雲の地面の上には、雲の小さなテーブルがあり、

その上に実家と同じ電話機が置いてある。



プルルルとベルが鳴っているので、受話器を持ち上げ耳に当ててみた。



聞こえてきたのは、母の声。




『夏美、ちゃんと処女を守ってる?


お母さんはね、結婚してくれない男の人を好きになって苦労したんだから、

夏美にはちゃんとした恋愛をしてもらいたいの。


分かるよね?

結婚してくれない男性と、恋愛してはいけないよ』




幼い頃から言われ続けて、脳細胞の一つ一つに染み込んだ母の持論。



その台詞に、今までは素直に頷いていたけど、

今はこう、聞き返してしまった。




「勝手に好きでいるのも駄目なの?


お母さんあのね、私、好きな人がいるの。

その人はきっと結婚しない人。

昔、恋人に裏切られたことがあるんだって。


ビール研究とハムスターは愛せても、

久遠さんはきっと、女の人を好きになったりしない。


だから……恋愛にはならないの。

私が勝手に好きなだけ。

それならいいでしょ?


恋人とか付き合うとかじゃなく、ただ好きを続けるだけならポリシーに反していないよね?」




< 197 / 453 >

この作品をシェア

pagetop