ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
ビールの泡のような雲の上に、
一人ポツンと立っていた。
すぐに、これは夢だと気づく。
雲の地面の上には、雲の小さなテーブルがあり、
その上に実家と同じ電話機が置いてある。
プルルルとベルが鳴っているので、受話器を持ち上げ耳に当ててみた。
聞こえてきたのは、母の声。
『夏美、ちゃんと処女を守ってる?
お母さんはね、結婚してくれない男の人を好きになって苦労したんだから、
夏美にはちゃんとした恋愛をしてもらいたいの。
分かるよね?
結婚してくれない男性と、恋愛してはいけないよ』
幼い頃から言われ続けて、脳細胞の一つ一つに染み込んだ母の持論。
その台詞に、今までは素直に頷いていたけど、
今はこう、聞き返してしまった。
「勝手に好きでいるのも駄目なの?
お母さんあのね、私、好きな人がいるの。
その人はきっと結婚しない人。
昔、恋人に裏切られたことがあるんだって。
ビール研究とハムスターは愛せても、
久遠さんはきっと、女の人を好きになったりしない。
だから……恋愛にはならないの。
私が勝手に好きなだけ。
それならいいでしょ?
恋人とか付き合うとかじゃなく、ただ好きを続けるだけならポリシーに反していないよね?」