ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
濃紺のネクタイが、私のパジャマの衿元に垂れていた。
端正な顔が、20センチ上から私を見下ろしている。
そんな状況で彼から漂うのは、色気ではなく不機嫌オーラだ。
ハンサムフェイスの眉間にシワを寄せ、久遠さんが聞く。
「まさか、お前……
非常階段での話を聞いていたのか?」
ギクリとした。
私が一言も説明しなくても、彼の頭脳は正解への道筋を辿っていた。
肯定も否定もせず、私は目を泳がせる。
呆れの溜息が、顔に落ちてきた。
「お前の態度がおかしい理由は分かったが、俺は誘いを断ったぞ?
最後まで聞かずに帰ったのか?」
そうだったのか……。
あの女子社員のしつこい誘いを、
久遠さんは最後まで断り続けたのか……。
それについてはホッとしたが、今私を凹ませている最大の原因は別にある。
変わらず浮かない顔を見せる私に、久遠さんは困り顔。
「何か言え。
非常階段の誘いは関係ないのか?
それなら、何が気に食わないと言うんだ?」