ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
 


数日前、新しい恋をしてみせると気合いを入れたばかりなのに、

いざ片岡さんに会ってみると気持ちは盛り上がらないどころか、勝手に沈んで行く。



そんな私の気持ちと呼応するかのように、雨が降り出した。



私は傘を持っていなかった。



ビルの外に出られずにいる私に、

片岡さんは黒い雨傘を広げて「どうぞ」と言ってくれた。



ふたりで一つの傘に入る。



彼の半身が濡れ、コートに雨粒が光っていた。




「あの、片岡さんが濡れてしまうので、そんなに私側に傘を向けなくても……」




そう言って傘の傾きを直して欲しいと頼んだが、

「君を濡らしたくないから」と、

彼はオーバーにも取れるほどに、私寄りに傘を差してくれた。




普通なら、女性に優しい素敵な人だと思うポイントなのだろう。



でも私の心に浮かぶのは、

「これも久遠さんとは違う……」

という身勝手な感想だった。



久遠さんは女性に甘くないし、特別優しくしたりもしない。



この場合、久遠さんならどうするだろうと考えた。



きっと二人とも濡れず、かつ歩きやすい方法。

コンビニで傘を買うという、合理的な手段を選択しそうな気がした。



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