ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
「あ、あの、片岡さん。
私やっぱり……」
やっぱり帰りますと言いたかったのだが、私の言葉を遮り彼が話し出す。
「君のことを、夏美さんと呼んでもいいかな?
名字だと中々距離が縮まらない気がして。
駄目ですか?」
「ダメじゃないですけど……
それより、あの……」
「良かった! 今日は僕にとって最良の一日です。
夏美さんと一緒にバーラウンジで乾杯できるなんて幸せです!」
「ありがとうございます……」
帰るとはとても言い出せない雰囲気にされた時、エレベーターが最上階に到着した。
一杯だけ。
一杯お酒に付き合ったら帰れるから……。
帰りたい心にそう言い聞かせ、
手を引かれてバーラウンジに入った。
広々として落ち着いた、大人の空間が開けた。
照明は暗めに落とされ、開口の広い窓に夜景が見える。
雨が降っていなければ、クリアに見えてさぞ綺麗だろうと思うけど、
残念ながら雨に濡れた窓ガラス越しでは、光が歪んでぼやけて、感動することはできなかった。