ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
逃げ出したい……。
今すぐ逃げ出したい!
その一心で、久遠さんに言った。
「あの、場所を移しませんか?
ここだと、大勢の目があるので……」
恥ずかしいから、怒るにしても場所を変えて欲しい。
そう思って言った言葉に、
彼はこう返した。
「そうだな。ここは敵が多くてマズイな。
お前が口を滑らせて、ビールの情報をリークされたら大変だ」
彼にバレない程度の、呆れの溜息をついた。
由香のイケメンファイリング手帳に、書き込んでやりたかった。
『ビール開発の心配のみで、
羞恥心と女性への配慮が欠如している』と。
久遠さんは私の食べかけのトレーを左手に持ち、
右手で私の手首を掴んで、
社員食堂を出た。
どこに連れて行かれるのかと思ったら、
5階の研究開発部、彼の所属部署だった。
“関係者以外立入禁止”と書かれたドアを開け、
先に押し込まれた。