ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
小さな溜息が上から降ってくる。
彼は隠すことなく、正直に私に言った。
「美果子は、研究所時代に同じ研究をしていた同僚で……
俺の恋人だった女」
嫌な予感が事実に変わり、私の中にはフツフツと怒りが沸き上がる。
久遠さんが心血注いだ研究成果を、盗んだ本人がここにいる。
この女のせいで、久遠さんがどんな辛い思いをしたことか……。
恋人を裏切り手柄を横取りするなんて、信じられない!
いけしゃあしゃあと会いに来た彼女に、文句を言ってやろうとした。
そんな私を止めたのは、久遠さん。
片腕で引き寄せられ、顔を胸に押し当てられた。
私の視界に彼女が入らないようにして、久遠さんはこう言った。
「あの出来事は、もう過ぎたことだ。
お前が怒ることでもない」
「で、でも!」
「夏美、悪いが外で時間を潰してきてくれないか?
わざわざ俺の自宅を探し出すくらいだ。
仕事絡みの用件があるのだろう。
ここから先は専門的な話になる。
俺も英語で話さないとならない。
30分で終わらせるから、出かけてくれ」