ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
 


体を離したあと、久遠さんは端正な顔を傾け、キスをくれた。



上唇をはんで、下唇をはんで、舌を絡めてから、チュッとリップ音を立てて離れていく。



これが最後のキス……。



最後のキスは、いつもより短め。

もっとして欲しいけど、フライトの時間があるから仕方ない。




「久遠さん、いってらっしゃい」



「ああ。着いたらメールする。
一週間後、待ってるからな」



「……」




「はい」とは言えなかった。

口を開くと泣いてしまいそうで。


無理やり口角を上げて、笑顔を返すのが精一杯だった。



言葉を交わすのも、顔を見るのも、これが最後。

本当に最後……。



胸に愛しさと悲しみが迫りくる。

涙腺が今にも崩壊しそう。


溢れそうな想いと涙を必死に押し止めて、笑顔をキープしていた。



久遠さんが、スーツケースとビジネスバッグを手に持った。



「またな」

そう言って、玄関のドアを開けた。



泣いてはダメ……。

今泣くと、嘘がばれてしまう……。



久遠さんは、世界で活躍しなければならない人だから……。


ちっぽけな私なんかが、独占してはいけない人だから……。


久遠さんを、いるべき場所に戻してあげないと……。



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