ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
車椅子に座る社長が、「ワッハッハ」と声高に笑ってから、ゲホゲホとむせ込み、
駒野事務長に背中をさすられていた。
怖くて後ろを振り向けないけど、
飛び交う従業員達の色んな会話が、しっかり聞こえた。
「新社長って、事務の田丸さんの元カレ?」
「田丸さん追って、社長就任?
すごーい!」
「最近の若い者は、熱いですな〜」
「えー。玉の輿狙えると思ったのにー」
色んな声の中に、こんな声も混ざっていた。
「ホップ農家の、川原田さんの息子は?
田丸さん、あそこに嫁に行くんじゃなかったべか?
川原田の親父さん、あっちこちで言い触らしてっけど、どうすんだべ?」
従業員の群れの中から聞こえたその話題に、いち早く反応したのは、久遠さんだった。
ハンサムな眉間にシワを寄せ、
ジロリと私を睨んでくる。
え……何で睨むの?
私は悪くないよ?
川原田さんが一方的にそう思っているだけで、私は嫁に行く気は……。
言い訳する前に、腕を掴まれ引き寄せられた。
腰に白衣の片腕が回され、久遠さんにピッタリ寄り添う形にホールドされる。
その状態で、ざわめく従業員達の方へ向かされた。