ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
 


ただでさえ醜態さらして恥ずかしいのに、そんなことされたら顔から火を吹きそう。



今すぐダッシュでこの場から逃げ出したい気分だけど、

腰に回される腕は、振りほどけそうになかった。



恥ずかしがる私と違い、久遠さんだけは一切の照れなく、

みんなの前で平然と、こう言い放った。




「今日は就任挨拶だけのつもりでいたが、ついでに報告させてもらいます。

俺と田丸夏美は、近々入籍します。

結婚後もこいつには事務員として働いてもらうので、夫婦共々よろしくお願いします」




天才な彼だけど、「バカ!」と罵っていいだろうか?



ああ……4年間、地味で真面目な事務員として、平穏に働いてきたのに、

これから私は、どんな目で見られることか……。



そんな不満も、鳴り止まぬ拍手や冷やかしへの恥ずかしさも、

溜め息ひとつで、すぐに喜びに取って代わられた。



やっぱり、嬉しい……。


愛し合える日が、戻ってくるなんて夢みたい……。



胸の奥に押し込めて、蓋をしていた久遠さんへの想い。


しっかり蓋を閉めたつもりでも、
時々漏れ出て困っていたのに、

その蓋はもう、いらないみたい。



4年間ずっと曇り空だった胸に、久しぶりの青空が広がっていた。



微笑みながら見上げると、彼も穏やかな笑みを返してくれた。



「久遠さん……私、今も、久遠さんを愛していますから……」



みんなには聞こえない、小さな声でそう言うと、



「当然だろ」



そんな自信満々な返事が返ってきた。




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