full of love~わが君の声、君の影~

有り難いことに
坂上は誰にでもわけ隔てなく言葉通りの優しい声で接してくれたし
神島は最初から俺を忌み嫌っていたから、声を聞くまでもなかったが;
そのかわりウソがなかった分わかり合えた数少ない同志だ。

だが仕事が上手くいけばいくほど、敵意のある声を聞くことも多くなる。
子どもの頃は避けてしまえば済んだところを
仕事となるとそうもいかない。
いちいち気にしていたら身が持たないのはわかっているが
おかげでちょっと人間不信なのは確かだ。


問題は女性関係;
女性は好意を持った男性に対して、話す時に少し声のトーンが上がる。
だから気にいった女の子が自分に好意を持っているかが俺にはすぐにわかってしまう。
おかげで告白して失敗した試しがない。
だが
その付き合いはいつも1年と持たない。

―――『今日のデートは楽しかった。こんなの欲しかったの。今日のライブ最高だったよ。カッコよかったよ。etc..』
少しでもいつもとトーンが違うだけで「本当なのか?」疑ってしまう。
疲れていたり悩みがあったり、その時々で違うのは当たり前。
誰でもそうだ。
なのに好きな女の子となると更に過敏になった。
信じられなくなった。


だから彼女の声に惹かれたのかもしれない。
彼女の声は落ち着いていて揺るぎがなく感じた。
耳に心地よくていつまでも聞いていたい声だった。
ウソのない“信じられる”声だと。

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