full of love~わが君の声、君の影~
「カンパーイ!」
お惣菜やらおつまみやらテーブルいっぱいに広げ
俺たちはビールを開けた。
彼女は明日は休みだと言うし
俺も昼まで空いている。
俺たちは朝まで飲む勢いで
飲んで食べて
相変わらず他愛ない話をした。
顔を見て時間制限もなしで話せることが楽しくてしょうがなかった。
でもこれだけは聞いておきたかった。
酒の力を少しだけ借りてみた。
「怒っているとか・・責めるつもりとかはないけどちゃんと教えて欲しい。なんで離婚のコト黙ってたの?」
「・・・」
確かにダンナさんと上手くいってないのは何となく感じていた。
彼女は何も言わなかったから。
周りのスタッフや友人たちの中にも既婚者は多いからわかる。
たとえ、それが悪口であったとしても
こちらから振らなくても一緒に暮らしている相手のことは思わず話に出てしまうものだ。
けれど
彼女は一切ダンナさんの話をしなかった。
それでも相談くらいして欲しかった。
少しは頼って欲しかった。
「離婚って結婚の何倍の労力だって・・誰かに聞いたことがある・・俺じゃあ力になれないのはわかってるけど・・」
「そんなことない!」
彼女の目が大きく見開かれる。
「そんなことないよ・・時々でもただ話すだけで・・それだけで私には十分に“力”になったから」
ホントに?
「あの人とは・・もうずい分前から夫婦ではなくなってた・・わかっていたのにこのままで良い訳がないこともわかっていたのに・・何もできなくて・・」
彼女の口から初めて“あの人”と他の男の話が出ただけで
胸の奥がジリリと音をたてる。
「前を向く勇気を、一歩踏み出す勇気をくれたのは晴喜くんだから・・ただね、ただ、あなたとどうこうなりたくて別れたんじゃないから。私は私のこれからのために別れたの。だから・・それをあなたに言うのは違うって思ったから」