full of love~わが君の声、君の影~

芸能界というところは異世界だ
それだけについていけずに普通の世界に戻っていく人間も多い。
だが1度知ってしまうとやみつきになるのもこの世界の様だ。
普通を望みつつまた舞い戻ってくる場合もある。

彼女はこの男にいずれあきて捨てられてしまうのがオチではないだろうか・・
(俺がこの男と同じ立場と容姿があればもっと好きにし放題だと思うがな)

「聞いてもいいですか?」
目の前のまだ大学生みたいな容姿の男がおそるおそる聞いてくる。
「どうぞ」
「離婚の話を切り出すとき彼女は何て言っていたんですか?彼女に聞いても教えてくれなくて・・」
「あまり思い出したくないな・・」
「スミマセン!気になってしまって・・そこを何とかお願いします」
俺に頭を下げる。
そんなことを聞いてどうするのか・・?

「彼女に離婚を切り出された時『好きな人がいます』と言われて驚いたよ。男は勝手だよな・・ずっとほったらかしにしてきたクセにそう言われて頭に血が上った。
『いつからだ?誰だ?』とたたみかけたら『つきあってはいません』っていうじゃないか・・それで何で別れる必要があるかって思うだろう?そう聞いたらあいつ・・
『このままではあなたにも好きな人にも失礼じゃないですか』って言うんだよ・・
まいったよ、何も言い返せなかった・・聞いていると思うけど・・私は彼女以外につきあっている女(ひと)がずっといてね・・いっそのこと思いっきりビンタでもされた方が良かったかも・・彼女なりのプライドだったんだと思うけど」
そこで俺はたばこを吸うと煙を溜息とともに吐きだした。

「あんな強い顔を見たのは初めてだったよ、ずっと何も言わずただはいはいと言うだけのお人形さんのようだったからね・・」
その顔を思い出すように目線を宙に浮かしまた俺はまたたばこの煙を吸った。

「・・・俺にはカンケイないって言ったクセに・・」
「何?」
「『好きな人がいます』ってそう言ったんですか?」
「あ?ああ」
「それって2年前の冬のことですよね?」
「そうだけど?」
「・・・」

(なんだ?何が言いたい?)

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