full of love~わが君の声、君の影~
「本当に当時つきあっていなかったのか?」
俺は話を変えるつもりで聞くつもりのなかった質問をしてみた。
「はい。つきあっていません・・ただ・・」
「ただ?」
「時々メールと電話で話していました」
「!?」
「といっても本当に他愛もないことばかりで・・それこそ天気の話とか・・仕事で会った面白い人のこととか・・信じてもらえないかもいれませんが色っぽいことは何も」
「そうか・・多分それは本当なのだろうな」
つきあってないなんて信じる気はなかった。
だが俺は聞かれてもいないのに話しだした。
「1度、忘れ物をして昼間に家に戻ったことがあるんだ・・連絡もせずに。家に入ると笑い声が聞こえたんだ・・それは電話をしている彼女だったんだけど・・あんな風に大きな声で笑うこともあるんだな・・とぼんやり思って・・すぐに忘れてしまった。そうか相手は君だったんだな・・
天気の話か・・そんな他愛のない話すら俺たちしていなかったからな・・子どもの進路とか俺たちの未来とか大事な話もしてなかったけどな」
そういって俺は目をふせて自嘲気味に笑う。
そうだった。彼女はよく笑う人だった。
いつの頃か笑い声を聞くことがなくなっていた。
そんなことすら気づけず俺は18年彼女と暮らした。
「俺が言えた義理じゃないけど・・」
いつの間にか自分のことを私から俺になっていることに今更気づく。
「彼女を頼むよ・・俺が与えられなかったものを君はきっとたくさん持っている・・」