full of love~わが君の声、君の影~

目を開けると男の後ろの桜の木の枝に腰掛けている今日子さんと目が合った
今日子さんは静かにうなづく

俺は片膝をついて彼の肩に手を置いた
彼の言葉と動きが止まる

「こちらこそ済まないことをしました・・僕がこんな仕事をしているばっかりに必要以上の負担をかけてしまいました・・」
彼が驚いたように顔をあげる
「もう自分を責めないでください・・彼女が・・今日子が心配しています」
「え?」
「今日子は最初からあなたのことを責めたり恨んだりはしていません・・きっと・・そういう人でしたから。そう思えるようになるまでずい分とかかりましたけどね」

俺は彼からずっと目を反らし続けてきた
“恨み”という感情をどうすればいいのかわからなかった
彼に会ってしまえばその感情がどうなってしまうか自分でもわからなかったし恐ろしくもあった

「だから・・」
俺は彼の肩をつかむとゆっくりと立たせた
「しっかり生きてください。彼女が心配しなくても済むように。 そして忘れないでください。そんな・・“お人よし”がいたことを」

彼はボロボロと泣きながら「はい、はい」と何度もうなづいていた



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