薬指の約束は社内秘でー婚約者と甘い生活ー【番外編】
「あぁ。今日はね、妻に誘われてね」
松田課長がチラリと視線を自分の隣に立つ、女性に向ける。
気管に埃でも入ってしまったようで涙目でむせている美希ちゃんの背中をさすりながら、ふたりに「こんにちは」と声を掛けた。
彼より少し背が高く見える中年女性は、松田課長の奥さんのゆりえさんだ。
少し前に、私の実家で開いたささやかな婚約パーティーに松田夫妻は出席してくれていた。
上品な黒のパンツスーツ姿がよく似合っているゆりえさんは、課長より年が5つ上で今年還暦を迎えるらしい。でも、そうは見えない綺麗な首筋とスッと伸びた立ち姿は、まだ40代後半と言っても分からないと思う。
実は、ゆりえさんはこのドレスショップのオーナーで、式場の口添えは彼女がしてくれたことだった。