薬指の約束は社内秘でー婚約者と甘い生活ー【番外編】
「大地からなんて珍しいな。なんだろう?」

父が営む定食屋の手伝いをしている大地からの電話に首を傾げながら、スマホをタップする。
ふたつ年が離れている大地は、父に似て色黒で口が悪く、無駄に声まで大きい。

「店の電話に出るときは、もう少し声のボリュームを考えてね」と何度注意しても、なかなか直らないというのに。

「姉ちゃん……」

電話越しから届いた覇気のない声に嫌な予感が胸を過る。
しばしの沈黙の後、続けられた言葉に思わず息を呑んだ。




夢を見た――。
夢の中で私は、実家の縁側で、遠くに連なる山々にゆっくりと沈んでいく夕日を眺めている。

幼い私の隣に座っている浅黒い肌の男性は、きっとお父さんだ。
でも、これって……。

デジャブのような感覚に襲われ、これが夢でなく現実にあった出来事だと思い出す。
心の声に反応するように、夢の中の父は満足そうに笑った。

< 37 / 95 >

この作品をシェア

pagetop