極彩色アリス

Previous day


狂い出しそうな誰かの悲鳴。
飛び散る赤い紅い花びらのような斑点。
物言わなくなった目の前の人だったものは酷く美しく見えるもの。
どこの誰かなんて思い出せないし、それ以前に知り合いなのかも危うい。

目の前を通りすぎる黒蝶に目を奪われる。
先ほどまで美しく感じていた【それ】は既に用無しで興味も無くなっていた。

蝶は人の魂のようにふわりふわりと飛び、こちらを導いてくれるようだ。
怯えて後ずさるこいつらを一掃するように、持っている刃物を振り回す。
ただそれだけなのに皆、どんどん倒れて動かなくなる。
真っ赤な水溜まりが作られていく。


絶望は濡羽色の羽を広げて、そして、ひらひらと泣き叫びながら舞う。踊る。


【黒蝶】。
それは黒い涙の花びらの跡。
いつかは散る定めとわかっている。
まるで、徒花。

そんな危うさを持った、純粋で綺麗な心を持った幼い少女の通り名。

流刑の館にはためく夢はきっと絡め捕られたらもう戻れない。

穢れを知らない少女が汚されるその時。
真っ赤な雨が降り始め、暗闇に轟(とどろ)く雷鳴。
その一瞬の光に浮かぶ少女は薄ら笑いを浮かべていた。


< 74 / 105 >

この作品をシェア

pagetop