10回目のキスの仕方
「おぉーその顔は…結構いってる?」
「ああああ明季ちゃん!」
「初デートは?ちゅーは?」
「初デート…?」
「へ…?」

 言われてみてはたと気付く。付き合い始めた時期というものも曖昧だが、改めて考えると、二人きりで外出したことなんてない。

「…行って…ない…。」
「はぁ?実家には行ったのに?」
「うん…。そう言えば…お家に行き来はあるけど…どこかに外出って…。」
「ますますはぁ?」

 明季の眉間に皺が寄った。

「お家の行き来って、デートもしないでいきなり夫婦ですかあんたらは!妙な落ち着きよりもときめきを!」
「と、…ときめき…。」

 ドキドキは、している。圭介の近くにいて安心することもたくさんあるけれど、ドキドキすることの方が圧倒的に多い。明季が言うような妙な落ち着きはない気がする。

「落ち着いてなんか…ないと思うんだけどなぁ。圭介くんの前ではあたふたしてると思うよ?」
「でもそれを浅井サンはほほえましーく見守ってるわけだ!なんなの、浅井サンは草食系?そうなの?」
「…わ、わかんないよ!」
「とにかくデートしな!どっか行きなさい!」
「え、えぇ!そんな急に…。」
「この際どこでもいいし、美海から誘えば浅井サンは断らない!」
「そ…そんなの…。」

 自分からどこかに行こうなんて誘えない。今までに男の人にそういう風に誘ったことなどない。

「浅井サンと行きたいところは?」
「…どこ…だろう…。一緒にいられれば…もうそれで…。」
「てだから!そうじゃなくて!なんでもう熟年夫婦みたいな落ち着きなの!」
「熟年…!」

 何故か明季の方が盛り上がってしまっている。この場を一体どうしたら収められるだろう。

「恋人同士の距離感をもっと大事にして!というわけで浅井サンとデート!絶対デート!」
「うぅ…そんなの…難しい…よ…何て言えばいいの…?」
「何でも美海が言ったら可愛いから大丈夫!」
「そんなの…。」

 言ってることが滅茶苦茶だ。
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