10回目のキスの仕方
* * *

『絶対今日連絡しなきゃだめだからね。どうなったかあたしにLINEで報告!』

 と言われてしまった以上、どうにかせねばならない。嘘は明季に見抜かれてしまうし、報告がなくても明季には怒られる。
 スマートフォンを握りしめて30分は経つ。LINEでいけばいいのか、電話か、直接会いに行くべきなのか。

「ど、どれが正解だろう…。あ…あぁー!」

 LINEの画面で、圭介宛てに文章を打ち込んでいた。送る気はなかったが、ごろんとベッドに横になった瞬間にスマートフォンに触れていた指がずれて、メッセージを送ってしまった。
 なかなか既読にならない画面に、ほっとしたような不安なような複雑な気持ちになる。

「…バイト、かな。」

デートをしていないこともそうだが、改めて考えると圭介のことをほとんど何も知らない自分に気が付く。家族構成こそ知っているが、誕生日も知らなければバイトの時間も知らない。好きな食べ物も、趣味も、探せばもっと知らないことが出てくるような気がする。

「…何も、知らないなぁ…私。」

それなのに大切だと思い、大切にしたいと願う。不思議な感覚だ。
なかなか既読にならないスマートフォンの画面を見つめていると睡魔が襲ってきた。

「…う…眠い…。」

9月になっても暑すぎる毎日に身体が悲鳴をあげつつあるのは知っていた。風邪をひいたわけではないけれど、眠くなるのは早くなった。重い瞼に抗えずにゆっくりと目を閉じ始めたその時、スマートフォンが震えた。

「け、圭介くん!」

慌ててスマートフォンを耳にあてると、少し疲れた声がした。

『…あ、もしかして寝てた?』
「ね、寝てません!」
『今バイト終わって…ケータイ見た。』
「お、お疲れさまでした。すみません、お疲れのときに。」
『いや、大丈夫。それより、暇な日って…。』

回りくどい言い方をしないのが圭介だと知っている。だからこそ身体に緊張が走る。

「…あの…お時間はいつでもいいのですが…。」
『うん。』
「…どこか、行きませんか?」
『え…?』

言い終えて、心臓がドクドク鳴っているのがわかる。頬が熱い。熱くてたまらない。

『今、家着いたんだけど、会える?』
「あ、はいっ!今出ます!」
『うん。』

電話はそこで切れた。すっぴんであるのはもう気にしないことにする。サンダルを履いて、階段を駆け下りた。
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