10回目のキスの仕方
「…圭介くんは望めばきっと、もっと素敵な人に巡り合うと思います。愛されているし、愛されるべき存在だと思います。でも私は…そうじゃない。それがずっと…苦しかった。圭介くんとあまりにも違う自分が、…傍にいてもいいのかなって。でも…いたいって思う気持ちが…どんどん強くなって。」
「っ……。」

 もう一度強く抱きしめられる。それこそ、二人の間に何も挟まる隙間もないくらいに強く。

「…自分のことも、圭介くんのこともちゃんと信じたいのに、…多分信じきれていない。…それなのにこんなに甘えて、でもそれを圭介くんは全て許してくれて…本当は出会えただけで…私には十分すぎるくらいのことなのに…。」
「…やっと、美海のことが分かった気がする。」
「え…?」
「美海がずっと気にしてたものに、やっと気付けた気がする。」

 ゆっくりと腕から解放される。それが少し寂しくて、思わず服の裾を引いた。

「…話してくれて、ありがとう。もっとちゃんと、大事にしたいって…思える。」
「これ以上…大事にされたら何も私…返せません。」
「返してくれてるよ。笑ってくれるから。」
「そんなんじゃ…全然足りません!…私、貰いすぎです。」
「今まで貰ってこなかったものを補ってるだけなんだから、それでいいんだよ。むしろ俺は今まで貰いすぎてた。だから美海にわける。」
「…私も、ちゃんと返したい…です。」
「そう思うなら、我儘言って。」
「え?」

 真っ直ぐな圭介の目に見つめられて、呼吸が止まる。

「ずっとずっと我慢してた寂しさを、ちゃんと出して。寂しいって言って。」
「……しい。」
「うん。」
「…寂しかった…です…。」
「うん。」
「お母さんに…いなくならないでほしかった…。」
「そうだね。」
「…お父さんにたくさん抱きしめて…ほしかった…。」
「うん。」
「大事な人に…離れてほしくない…。」
「離れないよ。」

 美海の涙に、圭介の唇がそっと触れた。
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